第2章 高校教師
「旅行の写真?」
「いいえ、住んでいたんです。高校卒業まで。」
故郷である北海道函館市。
潮の香り漂う港街。
その港街で、私は1歳から18歳までの17年を過ごした。
生まれてからの1年間は東京に住んでいたと、昔祖母に聞いた事があったが、当然そんな記憶などない。
そのため、私の人生は北国の港街である函館から始まった。
今は年に一度帰る程度であったが、やはり私にとっては幼少期から大切な青春時代を過ごした特別な街だ。
「この写真、隣はお母さん?」
「はい、母です。」
男は出窓に並べてある写真たてに見入っていた。
八幡坂の写真の隣にあった母との写真。
それは大学1年の5月に撮影したものだった。
上京してから初めて函館に帰った際、ホームシックになってしまった私を励ますため、母は五稜郭公園へ連れて行ってくれた。
五稜郭公園とは“箱館戦争”の舞台となった特別史跡で、星形の城郭一面に桜が咲き誇る函館の観光スポットだ。