第12章 壊れてしまえば
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「私の世界って、もともとこのベッドの上だけだったんだね。」
泣きじゃくる彼女の隣に寄り添うように座り、ただ「うん。うん。」と相づちを打ちつづけた。
そんな彼女がポツリとこぼした言葉。
17才の彼女にとって、自室の縦195cm×横100cmの狭いッドが、唯一の『世界』だったのだと思った。
高杉さんのマンションに着いた時には、すでに午後9時をまわっていた。
今日も当たり前のようにここへ帰って来てしまった…。
高杉さんには申し訳ないが、しばらくの間はお世話になろうと思う。
借りていた合鍵で部屋へと入る。
すでに高杉さんは帰宅していたようだ。
明かりの灯るリビング。
キッチンからは何やら騒がしい音が聞こえてきた。
「あっ、美波。
ずいぶん遅かったね。」
昨日の花柄のエプロンとは違い、シックな黒のエプロンを身に付けた高杉さんは、お玉を持ちながら慌てた様子でキッチンから姿を現した。
そんな高杉さんの様子よりも、名前で呼ばれた事に驚く。
いつもの“先生”ではなく“美波”。
何か心境の変化でもあったのだろうか。