第12章 壊れてしまえば
玄関の開く音が聞こえたのと同時に、リビングにいたであろう母親の甲高い声が聞こえてきた。
「コウちゃん、おかえり。
どこに行ってたの?」
「…うるせぇな。」
「コウちゃん、いつもコウちゃんがやってるゲーム教えてくれない?
ママもやってみたいな。」
「うるせぇって言ってんだろ!?
しゃべるんじゃねぇよ、キモいんだよ!!」
彼女の“兄”は母親に暴言を浴びせると、そのまま階段を上り、彼女の部屋の隣にある自室へとこもった。
何となくではあるが、この家庭の問題点が分かりはじめた。
父親は家庭の事に無関心。
母親は彼女に対しての家事や育児を放棄しているが、彼女の兄の事は溺愛している。
激しい兄妹間格差。
幼少期から無条件で可愛いがられ続ける兄。
それを見ているだけの妹。
この事は、彼女の人格形成に多きな影響を与えた事だろう。
もしかすると…村瀬先生との関係も、この劣悪な家庭環境が引き金となっていたのではないだろうか。
これはあくまで私の憶測でしかないが、もう少し彼女の事が知りたいと思う…。