第12章 壊れてしまえば
母親とは本来、子供から無条件に慕われるべき存在だ。
特に幼い頃は母親がこの世界の全てだ。
母親からの愛を知り、温もりを知り、そこで培われた心と知恵を持ち、外の世界へと旅立っていく。
少なくとも私はそう思っている。
そして親とは本来、子供に対して無性の愛情と衣食住の整った環境、教育にいたるまでの全てを与える義務がある。
しかし、彼女の両親はそれを放棄している。
彼女は…幼少期から適切な保育を受けてこなかったのではないだろうか。
「お父さんは?」
「母親と同じで私には興味無いよ。」
「“きょうだい”はいるの?」
「兄が一人。」
「お兄さんは今どうしてるの?」
「“隣”の部屋にいるよ。」
「…え?」
「さっき出掛けたけど。
お酒でも買いに行ったんじゃない?」
「仕事は?」
「大学中退してそのままニート。」
「…そう。」
せめて兄妹仲は良いのか気になったが、彼女の口ぶりからするにお互い干渉せずに距離を保っているように感じた。