第12章 壊れてしまえば
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彼女の自宅は、赤い三角屋根の古い一軒家だった。
表札を確認し、チャイムを押す。
姿勢を正し、大きく息を吸い込んだ。
冷静に話をしなくては…。
ここ数日、心を乱される事ばかりではあるが、彼女には毅然とした大人の姿で接しなくてはならないと思う。
これはあくまで仕事。
そう自分に言い聞かせてはみるが、彼女との関係はもはや生徒と教師などではない。
先ほどの朝倉瑠美の態度には失望した。
やはり彼女を理解出来るのは私だけなのだろう。
私は…彼女を裏切ったりなどしない。
“親友”などという言葉を使い、彼女を苦しめる真似など絶対にしない。
玄関のドアが開いた。
中から出てきたのは白髪混じりの髪を一つに束ねた中年の女性だった。
流行遅れなデザインの古い眼鏡をし、首もとのヨレたTシャツを着ている。
この女性が…彼女の母親だろうか。
正直、イメージしていた彼女の母親象とはあまりにもかけ離れていた。