第12章 壊れてしまえば
私は…自分の名前さえ知らなかった男に抱かれるのか。
いや、今はそんな事を気にしている場合ではない。
正直、相手など誰でも良いのだ。
この身体に染み付いた佐久間さんとのセックスを消し去りたいだけなのだから。
高杉さんの瞳は真っ直ぐと私を見つめていた。
まるで獲物を捕らえる前の獣のような瞳。
情熱的であり、どこか冷たい。
「…美波です。」
「美波?」
「…橘美波です。」
私の髪に指を通す高杉さんの手に触れながら、そう答えた。
あまりにも遅い自己紹介。
抱くからには名前を知りたい。
そんな心理なのだろうか。
これから始まるのは愛を紡ぐ甘い一時などではない。
禁忌を犯した事への“贖罪”。
そんな意味さえもあるのではないかと感じていた。
そっと瞳を閉じ、口付けを待つ。
終わってしまえば一瞬だったと思えるだろう。