第12章 壊れてしまえば
「…して下さい。」
「え?」
「あの…キス、して下さい。」
目を合わせる事は出来なかったが、言いたい事は伝わっただろう。
予想だにしていなかった私の言葉に驚いたのか。
高杉さんは何も言わずに私の頬からそっと手を離した。
無言のまま、テレビの音だけが部屋の中に響く。
今まで散々迫ってきていたのは、ただ私をからかいたいがための言動だった事は理解している。
私の「やめて下さい。」という言葉があるからこその言動だったのだろう。
しかし、今は違う。
高杉さんの“誘い”に私が応えたのだ。
高杉さんは…一体どうするつもりだろう。
「冗談だよ。」と、いつものように笑ってやり過ごすのか。
それともこのまま関係を持とうとするのか。
高杉さんは手首につけていたヘアゴムで髪を束ねた。
そっと視線を上げ、高杉さんの顔をチラリと見る。
いつになく真剣な眼差し。
高杉さんはテーブルの上に置かれていたリモコンを手に取り、テレビの電源を消した。