第2章 高校教師
「こんなによく眠れたのは久しぶり。」
「目が覚めた時、驚いたんじゃないですか?」
「いや、所々記憶はあいまいだけど、君が助けてくれた所までは覚えてる。」
「隣の部屋の方ですか?」
「いいや、俺の部屋はここ。」
「ここは私の部屋ですよ。」
「昔住んでたんだよ、ここに。」
「懐かしいな。」と、男は部屋を見渡す。
「帰る家を間違えたんですか?」と呆れ顔で尋ねた私に男は「そういうわけじゃないよ。」と笑った。
「ここは俺が初めて一人暮らしをした部屋だから。
懐かしくて、たまにこの辺を散歩するんだよね。」
「お酒を飲みながらですか?」
「昨日はたまたまだよ。たまたま飲んでただけ。」
“たまたま”飲んでいたにしては、ひどく泥酔していたように思える。
嘘のような男の話。
しかし、不思議と納得する事が出来た。
男のまとう独特の空気がそうさせるのだろうか。
とにかく男には“邪気”がないのだ。