第2章 高校教師
「少し…話そうよ。」
男はそう言って穏やかに微笑んだ。
何てマイペースな人なのだろう。
そもそも食事をする前に話すべき事があるはずだ。
常識で考えれば、ゆっくりカレーを食べている場合ではない。
それでも、こうなってしまう原因を作ったのは私だ。
見ず知らずのこの男を部屋に入れ、そのまま泊めさせたのは私なのだ。
皿にカレーをよそうと、私は男の向かい側に座った。
不本意ではあったが、食事をしながら男の話を聞こうと思う。
「美味しい。」と言いながらカレーを食べ続ける男に危険な様子はなく、先ほどまでの恐怖心はもう消えてしまっていた。
どちらかと言えば、今は男の正体を知りたい。
なぜ昨日の夜、アパートの中庭で眠っていたのか。
なぜ2階の部屋まで手を貸して欲しいと言ったのか。
そして、なぜいつまで経っても帰らずにこの部屋にいたのか。
私の留守中に部屋を物色…というわけではなさそうだ。