第12章 壊れてしまえば
シャワーを手に取り、曇った鏡にお湯を掛けた。
流れるお湯で歪んだように見える鏡に身体が映る。
相変わらず凹凸のない身体。
女性としての魅力など全くない。
しかし…こんな私の身体を、佐久間さんは何度も何度も優しく抱いてくれた。
火照った肌を指でなぞる。
口付けてくれた場所ですらはっきりと覚えていた。
唇、耳たぶ、首筋、背中…脚、そして左手の甲。
どんな風に抱かれたか、どんな言葉をささやかれたか。
肌の感触、柔らかな髪の毛、体温、味や匂い…
忘れないよう、全てを身体に刻んだのだ。
どんなに拒もうとも忘れられる訳がない。
私の身体には…佐久間さんが染み付いている。
ボディスポンジで身体を洗う。
力を込め、何度も何度も身体を洗った。
赤くなっていく肌。
消し去りたい。
消し去りたい。
身体の痛みで心の痛みを紛らわす。
私の泣き声は、シャワーの音にかき消された。
どんなに身体を傷付けようとも…私の身体から佐久間さんが消える事はなかった。