第12章 壊れてしまえば
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「座って。」
「…ありがとうございます。」
高杉さんの住むタワーマンションは、都心の一等地にあった。
広すぎるリビングに置かれた革張りのソファー。
大きなテレビがある所までは佐久間さんの部屋とあまり変わらないが、高杉さんの部屋はどこか生活感があり、妙に居心地が良かった。
床に脱ぎ捨ててあるのはよく着ているワッフル素材のロングTシャツ。
たくさんのCDが収められている棚には犬のぬいぐるみが飾ってある。
「コロ…ケースから出してあげても良いですか?」
「良いよ良いよ。
最近までうち、猫いたし。
一通りの物は揃ってるから。」
「本当に…ありがとうございます。」
「いや、俺だって散々先生にはご飯ご馳走になったしね。
これくらいはさせてよ。
本当は今日もサクちゃん家に行こうとしたら“先生が家出した”って聞いて慌てて連絡したの。」
努めて明るく、高杉さんはそう話してくれた。
そのほうが私にも都合が良かった。
いつものように明るい高杉さんに心が救われた。
高杉さんはキッチンへ行き、冷蔵庫から水を取り出した。
「喉渇いたでしょ?」
そう言って渡された水のペットボトル。
ふと、佐久間さんに初めて会ったあの日の事を思い出した。