第12章 壊れてしまえば
恐る恐る携帯電話の画面をのぞき見た。
今は…名前を見るのも怖い。
愛しいはずであったその名前。
まるで呪いの呪文のようになってしまっていた。
しかし、そこに表示されていたのは佐久間さんの名前ではなかった。
『高杉誠』
まるで暗い海の底でもがき続ける私に差し伸べられた手のよう。
高杉さんの名前を見ただけで、こんなにも安堵感を覚える日がくるとは夢にも思っていなかった。
苦手であったはずの高杉さん。
そんな高杉さんは、私と佐久間さんの関係を唯一間近で見てきた存在だ。
すがりつくような気持ちで、私は電話に出た。
「…高杉さん?」
「あっ、先生!?どこにいるの!?」
「…分かりません。」
「えっ!?迷子!?」
「いえ…ちょっと動けなくて。」
「大丈夫!?
今迎えに行くから!!
近くに目立つ建物ある!?」
私がいなくなった事を佐久間さんに聞き、電話をくれたのだろうか。
いつも余裕のある高杉さんの声は慌てていた。
「…高杉さん…助けて。」
涙に濡れる頬に冷たい風が吹く。
震える手で携帯電話を握り締めたまま、私は高杉さんが迎えに来てくれるのを待った。