第12章 壊れてしまえば
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もうずいぶん歩いただろうか。
履き慣れない靴を履いていたせいか、かかとの皮がめくれあがり、ストッキングには血が滲んでいた。
ペット用のキャリーケースの中からは、コロのすすり泣くような声が聞こえる。
とりあえずは今夜眠れる場所をさがそう。
ペットと泊まれるホテルが近くにあればいいのだが。
私にはこんな時に頼れる友人もいない…。
いや、本当は愛美先生に頼りたかった。
しかし、愛美先生には佐久間さんの存在を明かしてはいない。
そもそも愛美先生には同棲している恋人がいる。
「私達も同棲する事にしたの。」
そう眩しい笑顔の報告を受けたのは、つい2週間前の事だ。
いきなり押し掛けても迷惑でしかないだろう。
ふと立ち止まり、空を見上げた。
ビルの谷間からわずかに見える藍色の空。
全てを塗り潰すかのよう。
いっそ、私の身体ごと葬り去ってほしい。
生きる事をやめたくなる。
こんな気持ちは久しぶりだ。
いや、現実逃避をするのはもう少し後にしよう。
今は現在地から近いホテルを探そう。
電源を落としたままの携帯電話。
相変わらず手の震えは収まらない。