第12章 壊れてしまえば
今思えば…佐久間さんと初めて会ったあの日もそうだ。
私が住んでいたアパートの中庭で倒れていた佐久間さんを助けたあの日。
作りおきのカレーを食べ終え、佐久間さんは出窓に並べてあった写真たてを見ながらこう言った。
“ねぇ、この写真って函館?”
そして…こうも言っていた。
“この写真、隣はお母さん?”
佐久間さんは写真たての中の母に見入っていた。
本当は…目が覚めた直後に写真たての母に気付いていたのではないか。
いや、最初から私の部屋にやって来たのも偶然ではなかったのかもしれない。
ならば理由は何だ。
生き別れた娘が急に恋しくなったとでも言うのだろうか。
それとも母との復縁か。
それとも…単なる興味か。
あの時は、何てマイペースな人なのだろうと思っていた。
見知らぬ女性のアパートで目を覚まし、そのまま居座り、シャワーを借り、夕食のカレーまで食べていったマイペースな佐久間さん。
そんな佐久間さんの行動には…きちんと理由があったのだ。