第11章 目眩がするほど
封筒からは出てきたのは、数枚の写真だった。
若かりし頃の母が、産まれたばかりの赤ちゃんを抱いている写真。
病院のベッドに腰かけ、タオルにくるまれた赤ちゃんを誇らしげに抱いている。
その赤ちゃんが自分である事に気付くのに、しばし時間がかかった。
こんな写真は見た事がなかった。
先ほど見たアルバムにも、赤ちゃんの頃の写真は1枚も無かった。
一番古い物でも1歳の誕生日…私が母と共にこの函館市へとやってきてからの物ばかりだった。
という事は、この写真は東京の産院で撮られた物だろうか。
生まれてからの1年間は東京に住んでいたと、昔祖母に聞いた事があった。
私の勝手な想像ではあるが、大学進学を機に上京した母は、私の“父親”である男と出会い、私を身ごもった。
祖父母はさぞ反対した事だろう。
望まれない妊娠。
母はひとり、東京で私を出産したのだ。
赤ちゃんの頃の写真が無いのはそのせいだと勝手に思っていた。
しかし、母はこうしてこの写真を大切に持っていてくれた。
戸惑いと共に、自然と嬉しさが込み上げた。