第11章 目眩がするほど
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“蝦夷梅雨”
その言葉もここ数年ではよく聞かれる言葉となっていた。
じとじとと湿った空気に冷たい霧雨。
今年は北海道らしくない天気が何日も続いていたそうだ。
昨日の夜、母からの電話で祖父の訃報を知った私は、今朝、生まれ故郷である北海道函館市へと帰って来た。
祖父母宅へと着いた時には、既に祖父は病院から戻り、白い布団に寝かされていた。
線香をあげ、手を合わせる。
厳格な生前の姿からは想像出来ぬほど、とても穏やかな死に顔だった。
「実は…1ヶ月前から入院してたの。」
赤い目を腫らしながら母はそう肩を震わせた。
憔悴しきった祖母。
疲れはてた二人の様子から、過酷な闘病生活を支えていた事が分かった。
…私は、一体何をしていたのだろう。
東京と函館。
物理的な距離はあったにせよ、電話の一本でも出来たはずだ。
「おじいちゃんやおばあちゃんは元気?」
そう母に連絡をしていたならば…
こんなふうに祖父との最期を迎える事は無かったかもしれない。