第11章 目眩がするほど
「早く座りなさい!!」
自分でも驚くほど、大きな声を出してしまった。
教壇に上がり、黒板に書かれていた文字を急いで消していく。
一体誰がこんな事をしたのだろう。
先ほど、彼女と村瀬先生が車に乗っているのを見たという男子生徒だろうか。
いや、犯人などもうどうでもいい。
このまま彼女と村瀬先生の関係が公になってしまう。
それだけは避けたい。
「早く席に着いて下さい。」
何事も無かったかのように平静を装う。
戸惑いや動揺、不満や嫌悪感。
様々な表情を浮かべながら席に着く生徒達。
ドクドクと早まる心臓の音。
「教科書…57ページを開いて下さい。」
震えそうになる声。
感情を押し殺す。
背中からは冷たい汗が流れていた。
後ろの席に座る彼女をチラリと見た。
窓際の一番後ろの席。
教科書に視線を落とす彼女。
いつものようにペンを持ち、授業が始まるのをただじっと待っているようだ。
開け放たれた窓から吹く風にカーテンが揺れる。
カーテンの隙間から差し込む太陽の光は、彼女の長い黒髪を美しく輝かせた。
何にも揺らぐ事のない美しい強さを持っていると思っていた彼女。
私には…そんな彼女の身体が震えているように見えた。