第11章 目眩がするほど
教室のドアを開けると、いつもとは違うピリついた雰囲気に驚いた。
男子生徒が黒板を囲み、何やら揉めているようだ。
チャイムはとっくに鳴っている。
「早く席に着いて下さい。」
そう男子生徒達へ声をかけたが、従う様子はない。
教室の後ろでは女子生徒達が戸惑いの表情を浮かべていた。
生徒同士のほんの小競り合いだろうか。
…なるべく揉め事には関わりたくはない。
「席に着いて。」
しかし、生徒達には私の言葉など届いていないようだ。
教室を見渡す。
生徒達の視線はある一人の女子生徒へと注がれていた。
後ろの席に座り、長い黒髪を耳にかけ、教科書を開く彼女…。
小松加奈。
最近ではこうして授業をするだけの付き合いとなっていたが、彼女が一体どうしたと言うのだろうか。
彼女の友人であったはずの女子生徒…朝倉瑠美も遠巻きに彼女をじっと見つめていた。
「だって、俺昨日見たんだよ。
小松と村瀬が車に乗ってる所。
あんな時間に二人でどこ行ってたわけ?」
男子生徒の言葉に驚き、とっさに黒板を見る。
『小松加奈と村瀬直紀は付き合っている』
黒板一面に大きな文字でそう書かれていた。