第2章 高校教師
「これ何?」
冷蔵庫に水のペットボトルを戻しながら、男はそう言った。
男は冷蔵庫の中にある片手鍋を指差している。
それは昨日の夕食に作ったカレーだった。
今夜も温めて食べようと残しておいたものだ。
「…カレーです。」
そう応えると、男の瞳が輝く。
「食べてもいい?」
この男の目的は一体何なのだろうか。
説明してもらいたい事は山ほどある。
いや、それよりも早くこの部屋から出て行ってもらうべきだろう。
ここは私の家だ。
「帰って下さい」と言う権利は私にある。
しかし、先ほどから男の持つ独特な空気感にのまれ、完全にペースを乱されてしまっている。
まるでこうして二人で過ごす事が当然のような雰囲気。
そして、そんな雰囲気を醸し出す男に、不思議と不快感はなかった。
「ダメかな?」
「…別にかまわないですけど。」
「嬉しい、ありがとう。」
男は顔をクシャクシャにして笑った。