第11章 目眩がするほど
好きなのは曲だけではない。
当時二十歳の佐久間さんは、あどけない少年の面影を残しつつも、色気のある大人の表情で見る者を魅了する。
柔らかそうなウェーブのかかった長い黒髪は昔から。
顎の髭はまだ無いが、優しく微笑んだ瞬間にチラリと見える八重歯は今も変わらない。
かつての姿にさえも胸をときめかせているなど、正直佐久間さんには気付かれたくはない。
「この頃…忙しかったなぁ。」
「そうなんですか。」
「ライブもそれなりにやってたし。
作品もどんどん出さなきゃって時で。」
「この年…アルバム2枚リリースしてますもんね。」
「そうなの。
高杉はほとんどの曲と歌詞を書いてるから、俺達なんかとは比べ物にならない位忙しかったと思うよ。
“がむしゃら”って表現が一番合ってるかな。」
「このライブの時の高杉さん…ちょっとやつれてますもんね。」
「もうこの頃はほとんど家にも帰れなくて。
事務所が用意したホテルで暮らしてたはずだよ。
曲は出来てても歌詞がまだとか。
ミュージックビデオの撮影でも必ず最後までかかるのはボーカルの高杉だし。」
「そうなんですね。」
本人の口から直接、当時の話を聞けるのはとても貴重な事だ。