第11章 目眩がするほど
「お前さ、同期の結婚式に行ったんだろ?
静香から聞いたよ。」
…静香。
佐々木静香。
披露宴で隣の席にいたあの女性だ。
「…うん。」と、当たり障りのない返事をする。
「俺も行きたかったのに嫁が許してくれなくてさ。」
「そうなんだ。」
「休みが取れるなら、子供の面倒が優先だって言われて。」
「赤ちゃん、産まれたんだね。」
「うん。もうすぐ1歳。」
「そっか。」
「もう毎日大変。
仕事から帰って来ても子供の世話で眠れなくて。
俺、子供が生まれてから6キロ痩せたからね。」
そうため息まじりに話す亮太の横で、私はただ相づちを打つ。
不思議と…亮太へ対しての不信感や怒りは湧いてこなかった。
きっとそれは、私の中で亮太は“終わった男”だからなのだろうと思う。
もう私の人生に関わる事のない存在。
亮太の口からどんな事を聞こうとも、もう私の心が揺らぐ事はない。
「ちょっとそこで話さない?」
亮太は近くにあるカフェを指差す。
一体…何を話そうというのだろう。
育児の不満を交えた嫁の悪口と、私との思い出話…といった所だろうか。