第11章 目眩がするほど
「それにしても橘先生、うらやましい。」
「え?」
「だって佐久間さんにキスされたんだよ?」
「…そうですね。」
「手の甲とはいえ、キスはキスじゃない?
私も高杉さんにキスされたいなぁ。」
愛美先生は机に頬杖を付き、ため息を吐く。
あの日、シャワーを浴びてリビングへ戻ると、佐久間さんがキッチンで水を飲んでいた。
「おかえり。」そう微笑みながら、そっと抱き締められた。
まるで飼い主の帰りを待っていた子犬のよう。
きっと佐久間さんに尻尾があったなら、勢いよく上下左右に振っているのだろう。
ライブの最中、手の甲へとキスをした件については一切触れる事はなかった。
洗い立ての髪を乾かし、スーツを切ると急いで家を出た。
「帰って来たらしようね。」
そう甘い言葉とともに優しいキスをもらった。