第10章 まばたき●
曲が進むにつれ、ライブの雰囲気にも慣れてきた。
正直、三曲目までは全く記憶が無い。
意識が飛ぶほどの興奮状態。
今のところ知らない曲は一曲もない。
それもそのはず。
愛美先生からはアイヴィーの全てのアルバムを借りて聴き込んだからだ。
演奏、歌声、パフォーマンス…照明の細部にいたるまで、一瞬で魅了させられてしまった。
それと同時に、高杉さんのMCでは相変わらずの話術で思わず笑ってしまう。
the IVYが持つ魅力の全て。
まばたきをするのも忘れ、その一瞬一瞬を心に刻んだ。
「次は皆さんの一番“感じる”ナンバーです。」
ライブもいよいよ中盤。
そんな高杉さんの言葉から始まったのは、アイヴィーの中では最も激しいとされるロックナンバーだった。
赤くギラつく照明を全身に受け、唸るようなギターが鼓膜を震わす。
マイクスタンドからマイクを外すと、高杉さんはステージ下手側へと走り出した。