第10章 まばたき●
「橘先生、今日はすごくラッキーだよ。」
「え?」
「目の前にステージから伸びる道があるの。
ここまでメンバーが来てくれるって事だよ。」
「佐久間さんがですか?」
「佐久間さんは上手側だから来てくれるかな?
高杉さんとベースの八巻さんは絶対に来てくれるよ。
アピールしなくちゃね。
目があったら嬉しいじゃない?」
確かに、私達の前にはステージから伸びる道が続いていた。
足元に照明のためのライトが取り付けてあるという事は、間違いなく誰かがここへやって来るという事だ。
出来れば…佐久間さんを近くで観てみたいと思う。
the IVYのギタリストである佐久間俊二のギタープレイ。
もちろん高杉さんの妖艶なパフォーマンスも楽しみだ。
しかし、出来る事なら私の姿に気付いてほしくはない。
日常的に自宅で会う仲である高杉さん。
どこか気まずさを感じてしまう
今日はとにかくアイヴィーの音楽に集中したい。
影からこっそりと覗き観るくらいの方が気が楽だ。