第10章 まばたき●
愛美先生のおかげで、私は今こうして日本武道館でアイヴィーのライブを観賞出来る事になった。
そのため、高杉さんが言っていた関係者席での観賞は断った。
初めて観るアイヴィーのライブ。
先ほどから、期待で胸は高鳴るばかり。
辺りを見渡せば、美しく着飾った女性の姿ばかりが目につく。
皆、雰囲気のある素敵な女性。
もちろんスーツ姿のサラリーマンやグッズのツアーTシャツを着た若い男性も大勢いるのだが、きらびやかな女性達に思わず目がいってしまう。
当然ながら隣に座る愛美先生もいつもとは雰囲気がかなり違う。
ラフなアップスタイルに赤い口紅、派手目なワンピース。
そんな愛美先生の横で、私はまるでお葬式にでも行くかのような黒いワンピースを着ている。
こんな所に来てまで私は自分に“劣等感”を感じるのか…。
いや、今日はそんな感情など皆無。
私にとって特別な存在である佐久間さんが、私を特別な存在として扱ってくれるのだ。
私にだって“価値”はある。
自尊心の低さが取り柄のような私であったが、佐久間さんのおかげでそう思えるようになっていた。