第10章 まばたき●
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すり鉢状の客席からは思いのほかステージを見渡す事が出来た。
開演までは15分。
日本国旗の下、ステージ後方ではストリングスの演奏が初まっていた。
「橘先生、遅くなってごめんね。
グッズ売り場混んでて。」
「いえ。」
「限定Tシャツ欲しかったの。
これ、橘先生のタオルね。
私からのプレゼント。」
「そんな…」
「いいの。
だって今日は橘先生が初めてアイヴィーのライブを観る記念日だよ。」
「…ありがとうございます。」
「彼にもお土産に買ったんだ。」
「彼氏さん…今日は残念でしたね。」
「仕事じゃ仕方ないよ。
チケット申し込んでから気付いたんだよね。
でも、橘先生がアイヴィーのファンになってくれて良かったよ。
チケット、無駄にならなくて良かった。
空席作りたくないもん。」
「そうですね。
ありがとうございます。」
愛美先生は席に着くと、興奮気味に会場を見渡した。