第10章 まばたき●
「…ちょっと待ってて。」
佐久間さんはソファーから立ち上がり、寝室へと避妊具を取りに行ってしまった。
このまま口の中に出してくれても構わなかったが、いかにも律儀な佐久間さんらしいとは思う。
脱ぎ捨ててある白いシャツを畳みソファーへと置く。
ふと窓の外を見ると、夕闇の中にうっすらと光の粒がキラキラと輝いて見えた。
それは星の明かりなどではなく、眼下に広がる街の明かりだった。
行為に夢中になっている間に夕日は沈み、代わりに現れたのは人工的な光。
立ち並ぶタワーマンションの明かりか。
それとも首都高を走る車のライトか。
数えきれないほどのまばゆい光。
北国の故郷の夜景にも似た風景。
いつもは夕方になるとすぐにカーテンを閉めてしまう癖があったたため、じっくりと眺めるのはこれが初めてだ。
星空の見えない都会の街でも、これはこれで美しいと思えた。
この街に来て、私はずいぶんとたくさんの物を手放したような気がしていが、得た物も多かったようだ。
そう今なら思える。