第10章 まばたき●
「…佐々木静香。」
そうポツリとつぶやく。
すっかりと忘れていたが、大学時代に亮太から何度もその名前を聞かされていた。
「静香から連絡が来て…」
「静香と飲みに行ったら…」
「静香から聞いたんだけど…」
亮太の親しい女友達。
そう思っていた。
「静香がお前の事で悩んでるって相談されたんだ。」
そう亮太に打ち明けられた。
私が佐々木さんに嫌がらせをしているという内容。
もちろんそんな覚えはない。
佐々木さんと顔を合わせたのも亮太の付き添いで参加した飲み会の席で数回きり。
時々校内ですれ違う事もあったが、佐々木さんはいつも軽く礼をする私に気付いてはくれなかった。
佐々木さんは亮太の事が好き。
そう確信した。
しかし、先ほど佐々木さんの左手の薬指には指輪が光っていた。
亮太への気持ちは薄れても、私への嫌悪感は未だに続いているのだろう…。
女の世界というのは恐ろしいものだと、再び深いため息がもれた。