第10章 まばたき●
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新婦のドレスの色を思い出せない。
電車とタクシーを乗り継ぎ、自宅であるマンションへと帰って来た。
時刻は午後6時。
二次会は式場近くのカフェバーで行われるらしい。
もちろん、私は誘われていない。
あれから、私はすっかりと空気のような存在になってしまった。
…誰も私の事など見えていないかのよう。
キャンドルサービスの際、私達が座るテーブルへとやって来た新婦に「おめでとう。」と声をかけるも、目が合う事はなかった。
エレベーターに乗り、深いため息をつく。
こんな経験は初めて…
ではなかった。
学生時代の私はいつもこうだった。
“大人しく地味な人”
それが私の立ち位置だ。
誰に話し掛けられる事もなく空気のように席に着き、ただ本を眺めるだけ。
大学時代は亮太のおかげで男女のグループで開かれる飲み会に数回顔を出した事もあったが、そこでも私は空気のような存在になっていた。
それが私にとっての“当たり前”であり“日常”だった。