第10章 まばたき●
ふと、思い出したのは“彼女”の事だった。
小松加奈。
あれから私達はすっかりと会話が無くなり、今では授業で顔を合わせるだけだ。
時々廊下をすれ違う事もあったが、彼女の隣にはいつも朝倉さんがいた。
口数の少ない彼女の横で、小動物のように笑う朝倉さん。
正反対に見える彼女達は、意外と馬が合うのかもしれない。
しかし…女の世界は恐ろしいもの。
彼女が孤立するきっかけを作った飯田理沙。
クラスが離れたからといって油断は出来ない。
また何かのきっかけで彼女が標的にされはしないだろうか。
一度トラブルがあった人間とは修復が難しい女の世界。
佐々木さんのように、飯田理沙も彼女へ対しての嫌悪感を持ち続けているかもしれない。
しかし…
私は今、彼女が何を思い、何を感じているのかも分からない。
私は彼女の唯一の理解者。
そう思えたのも、はるか昔の事に思えた。
今、彼女の隣には朝倉さんがいる。
私にしか務まらないと思っていたその役は…朝倉さんのものに代わってしまったのだ。