第10章 まばたき●
ワンピースの後ろのファスナーを閉めている時だった。
コンコンコンとドアをノックする音がした。
「はい。」と返事をし、ドアを開ける。
そこには車の鍵を持った佐久間さんが立っていた。
「準備出来た?」
「あっ…はい。」
佐久間さんはもたつく私の後ろへと回り、ワンピースのファスナーを閉めてくれた。
暖かい佐久間さんの手が首筋に触れる。
ふと鏡に目をやると、柔らかに微笑む佐久間さんが映っていた。
胸の奥がトクンと優しく鼓動を鳴らす。
鏡越しに見つめ合う。
後ろから伸びてきた佐久間さんの腕にそっと身体を抱き寄せられた。
「綺麗だよ。」
そう耳元でささやかれる。
「…ありがとうございます。」
普段から褒められ慣れていない私の返事はいつもぎこちない。
穏やかな気持ちに包まれながら、私は佐久間さんの運転する車で式場へと向かった。