第10章 まばたき●
「今のって…」
「二年生の朝倉さん。
確かバレー部だったかな?」
愛美先生はコーヒーカップをテーブルに置くと、名簿をパラパラと眺め始めた。
「あっ、小松さんと同じA組だね。
“朝倉瑠美”さん。」
“朝倉瑠美”
初めて聞く名前だった。
今年からは彼女のクラスの数学も受け持つ事になっていたが、私はもともと生徒一人一人の顔や名前は覚えない主義だ。
名簿を見ながら淡々と授業を進めていく。
生徒にとって私は“つまらない”教師かもしれない。
「愛美先生…生徒の名前覚えてるんですね。」
「うん。まあね。
保健室を利用した事のある生徒は大体覚えてるよ。」
「さっきの…朝倉さんってどんな生徒ですか?」
「気になるの?」
「はい…。」
正直、彼女の友人として相応しい生徒なのだろうか…という事が気になった。
余計なお世話だとは思うが、彼女の人間関係は把握しておきたいと思う。
私は彼女が心配だ。
もうこれ以上、彼女が傷付く姿は見たくないのだ。