第10章 まばたき●
その時だった。
保健室のドアが開いた。
ノック無しに入ってくるのは彼女しかいない。
いつものようにクリームパンを片手に現れた彼女。
しかし、今日はいつもと少し様子が違った。
私と目が合うなり、彼女はばつが悪そうにうつむく。
「あのさ…教室で食べるから。」
「え?」
「今日から教室で食べる。」
そう無愛想に話す彼女の横には一人の女子生徒がいた。
小柄で瞳の大きな女子生徒。
高めの位置で結んだツインテールが良く似合っている。
…彼女のクラスメイトだろうか。
二学年に進級した際にはクラス替えがある。
彼女が孤立するきっかけとなった女子生徒…飯田理沙とはクラスが離れたはずだ。
その事で彼女を取り巻く人間関係も変わったのだろうか。
彼女の隣で女子生徒は純真そうな笑顔を浮かべていた。
「小松さん、朝倉さん、分かったよ。」
愛美先生は明るい声でそう応える。
彼女達は愛美先生に軽く礼をし、パタパタと廊下を駆けていった。