第10章 まばたき●
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4月になり、新学期を迎えた私の心境は“今年も担任を任されずに済んで良かった”だ。
真新しい制服に身を包んだ新入生の間をすり抜け、向かうのは保健室。
今日も彼女がクリームパンを片手に現れるだろう。
小松加奈。
春休み中の彼女の行動は把握していないが、先ほどの始業式では特に変化は感じられなかった。
…村瀬先生との関係は今も続いているのだろうか。
こうして新学期を迎えたのだから、心新たに勉学にだけ励んでほしいと思うのは私の勝手な望みだ。
きっと、彼女と村瀬先生の関係は簡単に解消出来るものではないだろう。
保健室のドアを開ける。
中にはコーヒーカップを戸棚から取り出す愛美先生の姿があった。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様。」
愛美先生は満面の笑みで私を迎え入れてくれた。
彼女はまだ来ていないようだ。
いつものように、私は愛美先生と共にコーヒーをいれる。
彼女のマグカップにはココア。
少し大きめの花柄のマグカップは、すっかり彼女専用の物となっていた。