第10章 まばたき●
「そういえばサクちゃん、LAのスタジオなんだけどさ…」と、話は変わった。
“仕事”の話…だろうか。
「うん。うん。」と佐久間さんは楽しそうに相づちをうつ。
聞いた所で私にはさっぱり分からない話が続く。
早々と食事を済ませ、キッチンへと食器を下げた。
二人は楽しそうにワインを飲みながら音楽の話に夢中だ。
本当に二人は仲が良いと思う。
まるで…私の存在など見えていないかのようだ。
キッチンで食器を洗う私の足元へ、コロが喉をゴロゴロと鳴らしながらすり寄って来た。
まるで私の気持ちを察してくれたかのよう。
コロの額を優しく撫で、冷蔵庫を開ける。
卑屈な事を考えるよりも、今は赤ワインに合う物を作ろうと思った。
先ほど高杉さんが言っていた“優越感”や“嫉妬心”。
そんな感情は微塵も無いが、この心の中に湧いた“疎外感”のような感情は何なのだろう…。
まるで“キラキラと輝いた二人の世界”を見せつけられているような…そんな気分だった。