第10章 まばたき●
今のところ私には“優越感”も“嫉妬心”も無い。
あるのは佐久間さんの正体を知れたという安堵感。
高杉さんが心配しなくとも、私にはその類いの感情は無縁だ。
「何かあったら相談にのるよ。
もちろんベッドでね。」
ニタニタと微笑む高杉さんにはもう返す言葉が無い。
「そうですね。」と事務的に応える。
高杉さんは私の反応を見て面白がっているだけなのだから、こちらもそれに合わせて対応させてもらおう。
「ねぇ、先生。
“それ”ってカレーに入れるの?」
「え?」
「そのホタテ。生食用でしょ?」
カレーの材料を鍋に入れる私の横で、高杉さんは不思議そうに首をかしげる。
何かおかしい事でもあるのだろうか。
北海道の港町で暮らす母は、カレーには決まってホタテを入れてくれていた。
母の営む喫茶店でも、ホタテの入ったカレーは人気メニューになっている。
「ホタテ…おかしいですか?」
「もったいなくない?
せっかく刺身で食べられるのに。」