第10章 まばたき●
「甘い 甘い strawberry…」
そう歌った直後だった。
後ろから伸びた手に、突然イヤホンを外された。
私は驚き、小さな悲鳴を上げてしまう。
佐久間さんが帰って来ていたのだろう。
イヤホンをしていて気付かなかった。
私の鼻歌を聴かれはしなかっただろうか…。
「おかえりなさい。」
慌てて後ろを降り向くと、そこには満面の笑みを浮かべる高杉さんがいた。
「ただいま。」
「…高杉さん?」
「先生、ずいぶんご機嫌だね。」
「いえ…。」
戸惑う私の事などお構い無しに、高杉さんはイヤホンを自身の耳に付ける。
「アイヴィー聴いてくれてるんだ。嬉しいな。」
「あ…はい。」
こうして会うのは、高杉さんがアイヴィーのヴォーカリストだと知ってから初めてだった。
以前、深夜の音楽番組で観た色気のある横顔を思い出す。
今日は長めの明るい髪をラフに束ねているが、それでも直視し難い独特のオーラをまとっていた。