第10章 まばたき●
今夜は佐久間さんのリクエストでカレーを作る約束をしていた。
まるで子供のようだといつも笑ってしまう。
最近では料理のレシピサイトを見ながら作る事が増えた。
もともと料理が得意ではなかった私にも、それなりの物が作れるので重宝している。
私の作った料理を、佐久間さんは毎日「美味しい」と言って食べてくれる。
至福の一時だ。
ジャガイモの皮を剥きながら、イヤホンのボリュームを上げる。
流れてきたのは『strawberry』。
以前、愛美先生が保健室のパソコンでミュージックビデオを見せてくれた曲だ。
ドラムのハイハットから始まる壮大なミディアムバラード。
高杉さんの書く歌詞は抽象的な物が多い。
私がこの曲に受けた印象は“純愛であるが故のグロテスクさ”だ。
ただ…最後の『甘い 甘い strawberry』という歌詞は、どこか胸が苦しくなるほどの甘いささやきに聞こえた。
ジャガイモを切り、続いてニンジンの皮を剥く。
思わず鼻歌が出てしまいそうになる。
今は部屋にコロと二人きり。
佐久間さんは帰宅までもうしばらく時間がかかりそうだ。
柄にもなく、私は鼻歌を歌いながらニンジンを切った。