第2章 高校教師
「…1本もらえる?」
タバコとライターを制服のポケットへしまう彼女に、そうたずねた。
意味が分からなかったのか、彼女は不思議そうに首をかしげる。
「何をですか?」
「タバコ。」
「…え?」
「ダメ?」
「…ダメじゃないですけど。」
彼女は戸惑いながらもポケットから再びタバコの箱を取り出す。
チラチラと私の顔を見るのは、心が動揺している事の表れだろう。
彼女は「…マジかよ。」と小さくつぶやくと、箱の中から1本を手渡してくれた。
「ライターも貸して。」
「あっ…はい。」
タバコを口に加え、受け取ったライターで火を着ける。
その瞬間、煙から漂う匂いに胸が強く締め付けられた。
苦くも切ない亮太の匂い。
スーツに匂いが移るからと、嫌で嫌で仕方がなかった亮太のタバコの匂い。
それでも、タバコの後のキスは嫌いではなかった。
亮太の記憶を蘇らせる呪いのような匂いの中、私はただタバコをふかし続けた。