第2章 高校教師
彼女は黙って私の手からタバコとライターを受け取った。
彼女は何とも気まずそうな表情を浮かべたが、「…ありがとうございます。」と小さく頭を下げる。
礼を言われるような事など何もしていない。
ただ、彼女の持ち物を彼女に返しただけだ。
こんな時、彼女に何と言葉をかけてあげるのが正解なのだろうか。
“何か悩みでもあるの?”
“どうしてタバコなんて吸ったの?”
“私でよければ相談にのるよ”
このあたりが模範解答だろう。
しかし、私にとってはどれも“うわべだけ”の言葉にしか感じなかった。
教師と生徒など“うわべだけ”の付き合いなのだから、それでも良いとは思う。
毎年数百人の生徒が卒業し、新たに数百人の生徒が入学するのだから、いちいち向き合ってなどいられない。
ただ…今日はどうしても自分の心が導きだした行動や言葉で彼女と接したかった。
今日だけで構わない。
明日になればまた、事なかれ主義で“正しい答え”を探す自分に戻るのだから。