第9章 甘い嘘●
心が乱れ、揺れ動く。
生きている心地がしない。
確かな何かがあれば良い…。
佐久間さんが私に嘘をつこうとも、恋人である事に変わりはないという確かな何か。
私の心を落ち着かせる事が出来るもの…
静かに寝息を立てる佐久間さんの唇にそっと口付けた。
今私が出来る事といえばこの位しかない。
本当は今すぐ抱き合いたかった。
乱れた私の心を落ち着かせてくれるのは、やはり佐久間さんなのだ。
柔らかな黒髪をそっと撫でる。
きっとこの可愛いらしい寝顔は昔から変わらないのだと思う。
放課後の保健室で愛美先生に観せてもらった24年前のアイヴィーのミュージックビデオ。
とても美しい顔立ちだとは思ったが、どちらかと言えば今の佐久間さんの方がタイプだ。
色気の中に渋さがあり、とても素敵に年齢を重ねていると思う。
顎の髭をなぞり、そっと唇に触れる。
もう一度…
私はその唇にキスをした。