第9章 甘い嘘●
“お仕事って…“
そう訪ねた私に佐久間さんは少し戸惑った表情を浮かべていた。
余計な質問だっただろうか。
さすがに立ち入りすぎたかもしれない。
気を悪くさせてしまったか…。
そう思ったのを良く覚えている。
しかし佐久間さんは少し考える素振りをし、こう答えた。
“美容師だよ”
今思えば、あれは考えた挙げ句の嘘だったのかもしれない。
もしかすると迷っていたのかもしれない。
嘘をつくべきか、正直に話すべきかを…。
寝室へ行き、毛布を持ってくる。
相変わらず年齢を感じさせない可愛いらしい寝顔だ。
身体に毛布を掛け、佐久間さんの顔をのぞき見る。
佐久間さんがアイヴィーのギタリスト…。
未だに嘘のような話だと思う。
そもそもアイヴィーのギタリストならば、私のようなただの高校教師を相手になどするだろうか。
モデルに女優、アナウンサーにアイドル。
相手はたくさんいるだろう。
私は…恋人ではなくただの“セックスも出来る家政婦”。
卑屈な心がまた顔を出し始めた。