第9章 甘い嘘●
「…美容師なんです。」
「へぇ~、マジ?素敵じゃん!?」
ユカさんと愛美先生は顔を見合せながら「素敵だよね。」とうなずき合う。
何とかこの場をやり過ごさねば。
さすがに名前を聞かれたりはしないだろう。
今は話がそれるのを待つ。
何か旅行や料理の話…化粧品でも何でも良い。
別の話題に変わってくれさえすれば良いのだ。
「ねぇ、橘先生の彼氏はアイヴィーの事好きなの?」
「あ…いえ、音楽とかは聴かないと思います。」
「え~残念。」
「ユカちゃん、人それぞれなんだから。」
「そっか、そうだよね。橘先生ごめんね。」
「いえ…。」
話題は愛美先生の彼氏の話へと変わった。
今日はもうアイヴィーの話題には触れない方が良さそうだ。
楽しそうにおしゃべりに夢中になる二人。
その横で静かにスパークリングワインを飲み干した。
“私の恋人は佐久間俊二さんです”
そう言ってしまう事も出来たはず。
しかし…私は愛美先生とユカさんに嘘をついた。
それはまるで、出会った日の佐久間さんのように…。