第9章 甘い嘘●
「ところでさ…」
そう話をふってきたのはユカさんだった。
「橘先生ってさ、彼氏いるの?」
「私…ですか?」
「そう。最近の若い娘の恋愛観とか超聞きたい。」
「…恋人はいます。」
「へぇ。何してる人?」
身体中から冷や汗が溢れ出してくるのが分かった。
心臓はドクドクと鼓動を早めていく。
もし今…
「私の恋人は佐久間俊二さんです。」と言ってしまったら二人はどんな反応をするのだろうか。
間違いなくパニックになるだろう。
いや、そもそも相手になどしてくれないかもしれない。
「冗談でしょ?」と手を叩きながら笑う二人の姿が目に浮かんだ。
ここは佐久間さんの言っていた通り美容師と答えるのが正解だろうか。
すでに愛美先生には美容師である事を話している。
きっと美容師ならばおかしな空気になどならないはずだ。