第9章 甘い嘘●
「あの…アイヴィーって、どうして一度解散しているんですか?」
私の言葉に、一瞬空気が変わったのを感じた。
触れてはいけない事…だっただろうか。
ここまで二人を熱狂させるほどのバンドが、なぜ一度解散の道を選んだのか。
当時を知らない私にとっては不思議で仕方がなかった。
「それはね…」と話し始めたのはユカさんだった。
「さっきも言ったけど、高杉さんって音楽にとても誠実な人なんだ。
アイヴィーが解散する1年前…1998年ってさ、日本の音楽業界の大きな転換期だったんだよね。
今でも活躍してるような“女性ソロシンガー”のデビューが続いてさ、いわゆる“ロックバンド”の需要がどんどんなくなっていった年なの。
ちょうどアイヴィーの絶頂期が1997年の6thアルバムあたりだから、バンド自体も行き詰まった感じはあったのかもね。」