第9章 甘い嘘●
間奏が終わり、再びカメラは高杉さんを映す。
これは一体どういう事なのだろう。
“美容師ではなかった”
それだけは理解できる。
テレビ画面に映る高杉さんと佐久間さん。
驚きと同時に、その演奏とパフォーマンスに心が震えた。
心を射ぬかれたような…そんな不思議な気持ちに襲われる。
その瞬間、リビングのドアが開く音がした。
あまりにもテレビに夢中になりすぎて気付かなかった。
薄暗い部屋。
そこには仕事を終えて帰宅した佐久間さんの姿があった。
一体…何と声を掛ければ良いのだろうか。
佐久間さんはテレビ画面に映る自身の姿に気付いたのか、何を言うわけでもなく、ただテレビ画面を見つめている。
そろそろ曲が終わる。
私は意を決し、佐久間さんに尋ねた。
「あなたは…誰ですか?」
私の言葉に、佐久間さんは少し考える素振りを見せる。
そして、顔をクシャクシャにして笑いながらこう言った。
「ばれちゃったね。」
マイペースでつかみ所のない、謎多き年上男である佐久間さん。
そんな佐久間さんの正体は美容師ではなく、the IVYのギタリストだった。