第9章 甘い嘘●
その瞬間、手から滑ったリモコンが床へと落ちた。
ガシャンッと大きな音を立てて落ちたリモコン。
下の階に響いてしまっただろうか。
しかし、そんな事などどうでも良い。
私の瞳はテレビに釘付けになっていた。
独特な歌声、メロディの良さも当然ながら、歌詞の運びもスムーズで何とも心地が良い。
明るい髪色が照明に良く映えている。
まるで海外のモデルかと思わせるほどのスタイル。
手足は長く、顔は小さい。
年相応ながらも整った顔は、思わず息をのむほどの圧倒的な美しさがある。
…そんな男の名前は高杉誠。
いや…他人の空似か。
それとも夢でも見ているのだろうか。
黒を基調としたボタニカル柄のジャケットに真紅のボウタイシャツ。
普段よりも派手目な格好をしているが、マイクを持つ横顔は高杉さんそのものだった。