第9章 甘い嘘●
リモコンを手に取り、テレビの電源を付けた。
キッチンでビールの缶を洗いながら耳をかたむける。
すると、流れてきたのは先ほどから頭を離れないでいるドラマのエンディング曲だった。
the IVYの『insomnia』
医療ドラマとはミスマッチな抽象的な歌詞の静かなロック。
ドラマの再放送でもしているのだろうか。
いや、今日最終回をむかえたばかりのドラマを当日に再放送するなど考えられない。
だとすれば音楽番組か何かか。
テレビから流れてくるメロディに、私の心は震える。
イントロが終わり、いつもの独特な歌声が聴こえてきた。
ドラマのエンディングで流れていた歌声よりも少しだけ感情的な歌い方。
少ししゃがれた声が何とも色っぽい。
男性を褒めるのに“色っぽい”という言葉を使っていいのだろうかとも思うが、それが私のこの歌声の率直な感想だ。
洗ったビールの缶を水切りカゴの中へ逆さに置く。
初めて観る音楽番組に私の心は高鳴っていた。
急いでリビングへと向かいテレビの前に立つ。
これまでの3ヶ月間、ドマラと共に魅了され続けた曲をどんな人が歌っているのか…。
the IVYの『insomnia』
きらびやかな照明に照らされる男の顔をじっと見つめた。