第2章 高校教師
簡単な朝食と化粧を済ませ、私は部屋を出た。
ローテーブルの上には『鍵はポストに入れておいて下さい』の書き置きと合鍵。
見ず知らずの男にここまでする必要はないと思う。
もし男がアパートの住人とは全く関わりのない人物だったら…。
もし男が凶悪な犯罪者だったら…。
そんな事を考えたりもした。
しかし、男の寝顔を見ていたらそんな考えなどすぐにかき消されてしまった。
このまま眠らせてあげたい。
酒に溺れ、穏やかな眠りの世界へと落ちた男を現実へと引き戻すのは酷な気がした。
「…たまにはいいじゃない。」
バス停までの道のりを歩きながら、そうつぶやく。
今まで“正しい答え”を探し、“選択したい”ものではなく“選択すべき”ものを選んできた人生。
しかし、私は今日“選択したい”ものを選んだ。
バスに乗り込み、いつもの座席へと座る。
こうしてまた昨日と同じ1日が始まる。
しかし、昨日とはくらべ物にならぬほど、私の心は軽やかだった。