第1章 サンタクロース
「もう亮太とは会わないで下さい。」
重い沈黙をやぶるかのように、女はそう口を開いた。
何と言葉を返せば良いのだろう。
聞きたい事は山ほどあったが、そんな事を聞いた所で状況は何も変わらない。
“結婚する”と2人は言っているのだから「はい、分かりました。」と言う他ない。
これは“話し合い”ではなく、ただの“報告”。
恋の終わりとは意外とあっけないものなのだと、冷たいコーヒーを喉に流し込んだ。
「………幸せに…なって下さい。」
心にも無い言葉。
精一杯の強がりだった。
私は財布から取り出した千円札をテーブルに置く。
愛する恋人の裏切り…突き刺さるような女の視線。
その全てから逃げるように、店を飛び出した。